Kioku

記憶の記録

高校3年生の夏休み明けの事だった。

ある日の体育の時間、私はクラスメイトの亜衣子(仮名)のお腹が少し出ている事に気が付いた。
その時は「少し太ったのかなぁ?」位にしか思わず特に気にも留めなかった。
 
しかし、亜衣子のお腹の膨らみ方が不自然なので次第にクラス中に「妊娠??」と噂が流れるようになる。
学校は共学だったが、特殊な学科だったので私がいたクラスだけは女子ばかりのクラスだった。
女子だからこそ亜衣子の体の変化にすぐ気付いたんだと今は思う。
あるクラスメイトが亜衣子に「お腹出てるけど…太ったの?」と遠回しに聞いたら「うん」と即答されたらしい。
 
それから1ヶ月位過ぎた頃の体育祭の日。
何と亜衣子は50メートル走に参加した。
体調不良とか理由を付けて棄権すると私含めクラスメイトの殆どが思っていたからあの時は本当にびっくりした。
亜衣子は不自然に膨らんだお腹を両手で抱えながら走っていた。
転んじゃうんじゃないかと皆んな心配そうに見守っていた。そして女性の先生達も。
その時既に先生達も薄々、亜衣子のお腹の異変に気付いていたらしい。
 
体育祭が無事に終わり、それから数週間後のある日の事。
朝の1限目が始まる時間だったが、その日亜衣子は登校してなかった。
担任の先生が険しい顔をして教室に入って来て静かに話し出した…
「片岡さん(亜衣子の苗字・仮名)は妊娠が発覚した為、ご両親とも話し合いましたが、学校の規則に従い本日付けで退学処分になりました。」
その瞬間、亜衣子と1番仲の良かったクラスメイトの友美(仮名)が声を上げながら泣き出した。
同日付けで隣のクラスだった男子も退学処分になった。
亜衣子の彼氏で何度か関係を持った事がある事を学校側に認めたらしい。
その頃既に亜衣子は妊娠5ヶ月を過ぎ、人工中絶が出来なくなっていた。
元々亜衣子はポッチャリ体型で普通の妊婦さんよりもお腹が目立たなかったからか、両親は亜衣子の妊娠に気付いていなかったとか…
 
私が通っていた私立高校はとにかく校則が厳しい学校だった。
不純異性交遊(今は多分死語…)が発覚すると停学処分になる。今回の様に退学処分になる事もある。
喫煙、禁酒は勿論だが他にも今の常識では考えられない校則も沢山あった。
停学処分と言っても自宅謹慎ではない。
1週間以上毎朝6時に登校し、グランドの草むしりから始まり日中は他の生徒から隔離され別室で反省文を延々と書かされ、男子は丸刈り、女子はスポーツ刈りを強制される。まるで刑務所。
 
一緒に退学した彼氏は既に内定した会社があったが退学した為に入社出来なくなった。
実は亜衣子とは卒業後、私と同じ専門学校に行く筈だったが彼と同様の理由で入学出来なくなった。
私が進学した専門学校には他に亜衣子と仲の良かった友美も進学し、私は友美と通学をしていた。
友美から聞いた話だと亜衣子は退学後、彼の親から交際を猛反対され、結局別れて1人で無事に男の子を出産し、1人で育てると話していたそうだ。
今後の事について亜衣子の親と彼の親同士でかなり揉めたらしい。
彼の親は息子を庇い、亜衣子のせいで息子の内定も取り消しになり、将来がパーになったと何度も亜衣子達家族を責めたとか・・・
 
亜衣子とは私が専門学校に進学した後も年賀状だけの付き合いを続けていたが、いつの間にか音信不通になった。
亜衣子が生んだ男の子は生きていれば現在は二十歳を過ぎている。